格安SIMを提供するMVNOとNTTドコモやau、SoftBankといった大手キャリアとの大きな違いとして、格安SIMを提供するMVNOには音声通話サービスで定額制がない、というのがあります。
格安SIMを提供するMVNOの多くは、通話30秒20円(国内通話)という料金に設定されていて、OCN モバイル ONEの「OCNでんわ」のように10分かけ放題、トップ3かけ放題というようなサービスはあっても、指定された範囲外の通話については使った時間に応じた料金がかかります。
そのため、NTTドコモのカケホーダイやauのカケホ、SoftBankの通話し放題といった大手キャリアが導入している一定金額を支払えば通話し放題というサービスとは大きく異なります。
また、格安SIMを提供するMVNOの音声通話サービスには、大きくわけて3種類が存在していますが、今回はこの音声通話サービスで定額制が出来ない理由と提供されているサービスの違いについて見ていきたいと思います。
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音声通話サービスで定額制にできない理由
格安SIMを提供するMVNOのサービスが、音声通話サービスで定額制にできない理由の一つとして言われているのが、日本の格安SIMを提供するMVNOは音声通話に関する設備を持っていない、というのがあります。
以前、格安SIMはなぜ安い?で取り上げたように、格安SIMを提供するMVNOは無線通信回線を自社で持っておらず、必要な分だけNTTドコモやAu、SoftBankといった大手キャリアのインターネット回線を借りてサービスを提供しています。
ところが、これができるのはデータ通信の部分だけで、音声通話については全てをNTTドコモやAu、SoftBankといった大手キャリアのものを使っています。
このため音声通話については格安SIMを提供するMVNOの利用者であっても、NTTドコモやAu、SoftBankといった大手キャリアの設備を利用しており、NTTドコモやAu、SoftBankなどの大手キャリアは通話した時間に応じた料金を格安SIMを提供するMVNOに請求し、格安SIMを提供するMVNOはユーザーにその料金を請求しています。
もし、データ通信と同じように音声通話の設備を自前で持った格安SIMを提供するMVNOがあれば、設備の実際の稼働状況とそのコストを見ながら、音声通話サービスについてもより安い定額制のサービスが提供されるかもしれません。
しかし、現在のところ格安SIMを提供するMVNOの音声通話設備と接続を許可している大手キャリアは存在しませんし、大手キャリア設備を利用した状態で独自の音声通話サービスプランを作ることは難しいものがあります。
大手キャリアが提供している音声通話サービス
NTTドコモやAu、SoftBankといった大手キャリアが提供している音声通話サービスだと、現在はXi(LTE)回線に音声をのせる「VoLTE」という新技術が利用されていて、3G回線(FOMA)で提供している音声通話と比較して音質が良く、発着信にかかる時間が短くなっています。
VoLTEとは、「Voice over Long Term Evolution」の頭文字をとった略称で、データ通信技術・通信技術規格の名称です。
音声通話サービスは、1Gからこれから来る5Gまで通信規格を以下のように変えてきました。
- 1G(第1世代):音声をアナログ無線で送受信
- 2G(第2世代):アナログからデジタルへ、メールやウェブに対応
- 3G(第3世代):初の世界標準と高速化「FOMA」等
- 3.9G(第3.9世代):3Gを更に高速化した「LTE」「VoLTE」
- 4G(第4世代):ドコモの「LTE-Advanced」やUQ WiMAXの「WiMAX 2+」
- 5G(第5世代):100Mbps以上の超高速通信
LTE(Long Term Evolution)は、高速化、低遅延(応答速度向上)、多接続(同時に通信できる端末数の増加)を実現しています。
VoLTEは、この中の3.9G(第3.9世代)にあたる技術になり、高速モバイル通信ができる「LTE」を使って音声通話をするのですが、音声データをデジタルデータに変換し、Webやメールといったデータと同じように「パケット」として通話することで、
実際の通話品質が分かる3G、VoLTE、VoLTE(HD+)の比較サンプルがあります。
3G、VoLTE、VoLTE(HD+)通話音質比較
VoLTE(HD+)音質比較
Yahoo!モバイルもホーム > サービス 通話 > VoLTE/VoLTE(HD+)のページで3G、VoLTE、VoLTE(HD+)比較音源を用意しています。
比較してみると、VoLTE(HD+)の通話音質がかなり良くなっているのがわかります。
IP電話(VoIP)とプレフィックス方式
音声通話サービスについては、格安SIMを提供するMVNOにおいてもNTTドコモやAu、SoftBankといった大手キャリアの設備を借りているため、基本的には同様のサービスが提供されています。
ただし、音声通話サービスで独自のサービスを提供するのは厳しいのですが、そういった中でも通信方法を変える事で、いくつかの格安SIMを提供するMVNOはできるだけ音声通話料金を安くするためのサービスを展開しています。
一つ目がIP電話(VoIP)、もう一つがプレフィックス方式(中継電話)と呼ばれる電話サービスです。
これらのサービスは、格安SIMを提供するMVNOと回線の契約をしなくても使えるものが多いので、使い方によっては音声通話の料金を大幅に下げる事ができます。
IP電話(VoIP)
IP電話(VoIP)とは、インターネット回線を使った音声通話サービスです。
先ほど、音声通話サービスはNTTドコモやAu、SoftBankといった大手キャリアの設備を借りている、という説明をしましたが、IP電話(VoIP)を使うときその通話はキャリアの音声通話設備を使わず、格安SIMを提供するMVNOのデータ通信設備を使いインターネット経由で音声通話サービスが提供されます。
このように、NTTドコモやAu、SoftBankといった大手キャリアの音声通話設備を利用しないことで、格安SIMを提供するMVNOの方で比較的自由に通話料金を設定することが可能になります。
代表的なIP電話のサービスとしては、NTTコミュニケーションズの「050 plus」や楽天モバイルの「SMARTalk」、ブラステルの「My050」などがありますが、これらのサービスではIP電話のために050から始まる電話番号が別で発行され、この電話番号を使って通話を行います。
IP電話(VoIP)のメリット
IP電話(VoIP)は、インターネットを経由して接続をする音声通話サービスですので、多くのメリットがあります。
- 基本料金が安い
- 通話料金が安い
- 国際電話料金が安い
- 海外からも国内通話料金でかけられる
- 同じサービス間通話が24時間通話無料
- 050の発信者番号が持てる
まずメリットとしては、基本料・通話料が安いというのが一番で、基本料が「SMARTalk」や「My050」など基本料が無料のものは、必要な時だけしかコストがかからない点で嬉しいところです。
また、海外に電話をする、海外から電話をするということが多い場合にもコストが安く、050の番号は変わらないので、アプリを入れておくと大変便利。
あと、同じサービス間通話が24時間通話無料というのは、契約するサービスによって範囲が異なりますが、例えば「050 plus」の場合だと「050 plus」契約者間だけでなく、無料通話先プロバイダ約210事業者に対しても24時間通話無料で電話が掛けられます。
IP電話(VoIP)のデメリット
このように便利でお得なIP電話(VoIP)ですが、デメリットもあります。
- 緊急通報電話が使えない
- フリーダイヤルが使えない
- 通話の品質があまり良くない
- パケット通信料がかかる
- 発信者番号が050になる
- 携帯電話番号ポータビリティー(MNP)に対応していない
IP電話(VoIP)は、110番や119番などの緊急通報電話と、フリーダイヤルには電話ができませんので、これらの番号に掛ける際には通常の音声通話サービスを使う必要があります。
050の専用番号があるということは、世界中どこにいても同じ番号で掛けたり受けたり出来るのはメリットではありますが、使っているスマートフォンの電話番号とは違う番号で電話をかけることになりますので、デメリットでもあります。
IP電話(VoIP)は、携帯電話番号ポータビリティー(MNP)に対応していないので、契約している会社を変えると電話番号が変わってしまうのもデメリットです。
また、インターネットを経由して接続をする音声通話サービスですので、家やフリースポットといった、無料のWi-Fi環境であればいいのですが、そうでない場所で利用する場合には、スマートフォンでインターネットに接続しますので、パケット通信がかかる点は注意が必要です。
さらに、インターネットを経由して接続をするということは、通話音質がインターネットの接続環境よって大きく左右されるということであり、これが「IP電話(VoIP)は音が悪い」という話に繋がっています。
しかし、私自身は「SMARTalk」を3年以上使っていますが、国内でも海外でも音質が悪くて話が出来ないという事はいままでありませんでした。
もちろん、NTTドコモやAu、SoftBankといった大手キャリアの音声通話サービスと比較すれば、通話音質は劣るのは確かですが、それを上回るメリットが大きいものがあります。
プレフィックス方式(中継電話)
もう一つの音声通話サービスとして、プレフィックス方式(中継電話)というのがあります。
代表的なプレフィックス方式(中継電話)のサービスとしては、OCN モバイル ONEの「OCNでんわ」やIIJmioの「みおふぉんダイアル」や、楽天モバイルの「楽天でんわ」などがあります。
プレフィックス方式(中継電話)では、音声通話を中継するための設備を格安SIMを提供するMVNOや、その提携事業者が提供しています。
電話をかける際には、指定された「プレフィックス」と呼ばれる番号を先頭に追加することで、格安SIMを提供するMVNOの設備を経由してから相手につながります。
プレフィックス方式(中継電話)は、このように格安SIMを提供するMVNOの設備を経由しますが、使用される設備は全て音声通話専用のものですので、IP電話(VoIP)のような通話品質の劣化はなく、NTTドコモやAu、SoftBankといった大手キャリアの音声通話サービスとあまり変わらない通話品質で通話が行えます。
ただ、この仕組みを見ると余計な設備を経由しただけに思えますが、プレフィックス方式(中継電話)だと通話料金が安くなるのは、電話は他社との接続が必須になっているために、他社との接続料金を誰が支払うかがポイントになっています。
携帯電話会社間での接続料の支払いは、携帯電話会社Aから携帯電話会社Bでの通話が行われた場合、携帯電話会社Aから携帯電話会社Bに接続料が支払われます。
一方、プレフィックス方式(中継電話)を使った場合には、格安SIMを提供するMVNOから携帯電話会社Aと携帯電話会社Bに支払いを行う事になります。
このアクセスチャージとも呼ばれる接続料は、固定電話を提供しているNTT東西やIP電話(VoIP)の会社にもあるのですが、携帯電話会社ではだいたい接続料が30秒あたり2円ぐらいになっているようです。
つまり、プレフィックス方式(中継電話)のサービスで多い通話30秒あたり10円の通話料で考えた場合、携帯電話会社Aと携帯電話会社Bに各2円ずつ支払っても、格安SIMを提供するMVNOは10円から4円を引いた差額の6円が貰えるということになります。
この差額が得られるというのが、プレフィックス方式(中継電話)だと通話料金が安くなる仕組みなのです。
プレフィックス方式(中継電話)のメリット
このように、プレフィックス方式(中継電話)は基本的には通常の音声通話サービスですので、色々とメリットがあります。
- 基本料金が安い
- 通話料金が普通の音声通話サービスよりも安い
- スマートフォンの番号がそのまま使える
- 通話音質の劣化が少ない
- 音声の遅延が少ない
自分の番号そのまま使えて、電話料金が通常の音声通話サービスよりも安いのに、音質の劣化や遅延が少ないのは、音質を気にされる方にとってはメリットがあります。
また、電話番号の前につけなければいけないプレフィックス番号も、スマートフォンの場合はアプリ側で自動的につけてくれますので、スマートフォンで使う場合には殆ど気にする必要がありません。
プレフィックス方式(中継電話)のデメリット
良い事尽くしのように思えるプレフィックス方式(中継電話)ですが、デメリットもあります。
- 一部固定回線が非通知になる
- 緊急通報電話が使えない
- フリーダイヤルが使えない
ただし、個人で利用する場合であれば、固定電話へ非通知でかかってしまう事については特に問題にはならないでしょう。
また、110番や119番などの緊急通報電話と、フリーダイヤルには電話ができないものについては、IP電話(VoIP)の時と同じく通常の音声通話サービスを使ってかければ済む話です。
プレフィックス方式(中継電話)を利用する上で注意するべきと点としては、大手キャリアが提供しているのかけ放題や、家族間無料通話を契約していても、プレフィックス方式(中継電話)でかけてしまうと通話料が発生しまうので、そこだけは使い分けが必要になります。
IP電話(VoIP)とプレフィックス方式(中継電話)を使い分ける
IP電話(VoIP)とプレフィックス方式(中継電話)を見てきましたが、これらはうまく状況に応じて使い分けるのが、音声通話料金を下げるコツです。
NTTドコモやAu、SoftBankといった大手キャリアを利用していても、IP電話(VoIP)とプレフィックス方式(中継電話)に入ることはできますので、格安SIMを提供するMVNOへの乗り換えに不安がある方は、まずはこのあたりから利用してみるのもいいですね。